本センターとしての活動の内容は、真菌症の診断?治療法の開発、病原真菌の病原因子と薬剤耐性機構の解析、真菌細胞の超微細構造の解析、さらに病原真菌の主要な特性に関する分子生物学的研究など、多岐にわたります。
また、本センターの使命として次世代の真菌医学研究者を育成する体制を充実させており、本センターに在籍する大学院医学研究科および大学院医療技術学研究科(臨床検査学専攻)の大学院学生への研究指導を行っています。
本センターは、1984年に日本微生物株保存連盟(現?日本微生物資源学会)に加盟後、国内の医療現場で分離された病原真菌種の臨床分離株を中心に、有用な真菌株資源の保存活動を長年にわたって進めてきました(TIMMコレクション)。
保有する真菌株は2010年4月の時点で約9,700株(酵母:約6,500株、糸状菌:約3,200株など)に上っています。1992年に生物多様性条約が締結された結果、研究試料として病原微生物そのものやDNAを海外から入手することが難しくなっています。したがって、国内で分離された臨床分離菌株が多数を占めるTIMMコレクションは、我が国における真菌症対策を講じていく上で貴重なバイオリソースとなっていくでしょう。
私たちは、これらの保存真菌株を病原微生物の取り扱い基準を満たしている大学、病院、公的研究機関、企業の研究所などへ提供し、真菌症ならびに病原真菌の研究?教育を行う人びとを支援しています。このような活動を通じて、真菌症の克服、ひいては感染症の制御を可能にすることによって人びとの健康、安心に貢献していきます。
抗真菌薬の前臨床的研究は、我が国唯一の専門研究機関として世界的レベルを維持し、高い信頼を得ています。また新規抗真菌薬の開発用データの提供も行っています。
抗真菌薬の薬効評価を中心とする前臨床的研究は、我が国唯一の専門研究機関として世界的レベルを維持し、高い信頼を得ています。新規抗真菌薬の開発に関して、本センターでは候補物質のin vitroおよびin vivo抗真菌活性の測定、作用機序の解明、体内動態の解析などの薬効評価にかかわる試験項目について、臨床試験成績の予測や用量設定に必要な基礎的データを提供してきました。
現在では特定の試験項目に関する委託研究に限定されず、新規抗真菌薬ならびに、各種植物由来抗真菌物質のin vitroおよびin vivo抗真菌活性の測定、抗真菌物質の作用機序の解析、新規抗真菌薬の市販後調査、および抗真菌薬感受性試験法の標準化などに取り組んでいます。
上市年 | 外用抗真菌薬 |
---|---|
1984 | tioconazole、tolciclate |
1986 | cloconazole?HCl、oxiconazole?HNO3、sulconazole?H2SO4、butenafine?HCl |
1992 | butenafine?HCl |
1993 | neticonazole?HCl、terbinafine?HCl、ketoconazole、miconazole(経口ゲル剤) |
1994 | amorolfine?HCl、lanoconazole |
2005 | luliconazole |
上市年 | 外用抗真菌薬 | 剤型 |
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1962 | amphotericin B | 注射剤 |
1986 | miconazole | 注射剤 |
1989 | fluconazole | 注射剤/カプセル剤 |
1993 2006 | itraconazole | カプセル剤/経口液剤/注射剤 |
1997 | terbinafine?HCl | カプセル剤/錠剤 |
2002 | micafungin | 注射剤 |
2004 | fosfluconazole | 注射剤 |
2005 | voriconazole | 錠剤/注射剤 |
2006 | amphotericin B(リポソーム製剤) | 注射剤 |
さまざまな遺伝子診断法を開発し、多くが実用化されているほか、帝京大学大学院の宇宙環境医学研究と連携し、宇宙航空研究開発機構(JAXA)との共同研究も行っています。
a:真正子嚢菌綱 b:半子嚢菌綱 c:古生子嚢菌綱 d:くろぼ菌綱
e:さび菌綱 f:きんじん綱g:接合菌綱 i:エントモフトラ目 ii:ムーコル目
臨床検体やその培養から得られる病原真菌は形態学的な同定が困難な場合が珍しくありません。一般的に、臨床材料から得られる真菌は菌種特異的な表現形質に乏しく、また、おかれた環境や種々の要因によってさまざまな発育形態をとることが多いからです。深在性および表在性真菌症の予防?診断?治療上必要な原因菌を特定するにはDNA塩基配列の解析を行うことが最も確実です。
私たちが開発した診断法はすでに実用化されているものも多く、培養形態や糖の資化性などの表現型では同定が困難な菌種も確実に同定することができます。
また、臨床材料のみならず、真菌DNAのデータベースに基づいた広域な真菌についての解析方法を編み出したことにより、新種の真菌の発見および系統分類もスムースに行えるようになりました。これらの先駆的な研究成果により、今まで充分な同定?診断の行えなかったヒトおよび動物の新たな病原真菌の病態解析が進められています。
現在、私たちは国内外の医療機関?研究機関からの依頼を受け、真菌研究に関する助言、共同研究、新種記載などの協力を行っています。ヒト以外の動物、特に希少動物の真菌感染症についても、国内外の動物園と連携し、菌叢の解析、感染予防?診断?治療に関する情報提供に応じています。
また、閉鎖空間などの特殊な環境における真菌の動態に関する研究を行っています。私たちは現在、帝京大学大学院の宇宙環境医学研究と連携し、宇宙航空研究開発機構(JAXA)との共同研究として国際宇宙ステーションおよび南極基地の真菌叢の解析と健康障害リスクの評価ならびに対策についての研究を行っています。
本センターには、透過型電子顕微鏡(Hitachi H-7000)、走査型電子顕微鏡(JSM-7500F)、および蛍光顕微鏡、微分干渉顕微鏡などの各種光学顕微鏡が設置されています。
これらの顕微鏡を用いた可視化技術は、真菌の形態学、微細構造と機能の解析、遺伝子発現、生体高分子の局在性、細胞の生死判定、感染病理などさまざまな研究に用いられています。特に、電子顕微鏡を用いた新規抗真菌薬の作用機序の解析は、本センターにおける主要な研究テーマの一つとなっています。過去に上市された大半の外用剤に加えて、近年は、深在性真菌症治療薬ミカファンギン、ボリコナゾール、アムホテリシンB脂質製剤の真菌細胞に対する作用機序を微細形態学的に明らかにしてきました。
現在の主な研究テーマは、病原真菌の微細構造と機能解析、抗真菌薬および各種抗真菌物質の作用機序の解析、動物モデルを用いた真菌感染症の病態解析などです。
本センターでは、真菌症に対する有効な制御を講じていくために、起因菌の感染メカニズムに関するタンパク質および遺伝子レベルの解析を行っています。
主な解析の対象は皮膚糸状菌(白癬菌)です。白癬(水虫、タムシ、シラクモ)は人類最古の感染症といわれています。我が国における白癬の推定患者数は2,000万人を超え、世界的に見ても、ほぼすべての地域で人口の10%以上が常時罹患していると推定されています。まさに地球規模の感染症といえる白癬の起因菌である白癬菌の感染メカニズムを分子レベルで明らかにしていくために、遺伝子操作の系(遺伝子導入、遺伝子過剰発現、遺伝子ノックアウトなど)を確立すると同時に、モルモットを用いた体部白癬および足白癬モデルを確立しています。これらの実験系を使用して、本菌の感染過程における必須性が古くから指摘されてきたケラチン分解活性を持つ分泌型プロテアーゼ、すなわち“ケラチナーゼ”を中心に、広く病原因子の解析を進めています。
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単なるメカニズムの解析だけでなく、真菌症の予防?治療に結びつくような研究を中心としています。また、免疫調節剤としての真菌成分の研究も進めています。
真菌と宿主の相互作用は、宿主内の他の微生物との相互作用を含め複雑な様相を示しており、新たな予防治療法の開発には、その理解が必要な状況となっていま す。その観点から、真菌感染に対する生体防御能、真菌感染あるいは真菌成分による生体の免疫能の調節および天然物による感染制御などのテーマで研究を進め ています。
真菌感染に対する生体防御能の研究として、各種白血球のCandida albicans発育阻止能について検討し、漢方補剤、天然物による活性増強、さらには感染モデルでの感染予防治療効果を明らかにしています。また、多糖体を含む真菌成分自体が、免疫能を刺激し影響を与えるため、免疫調節剤としての真菌成分の研究も進めています。
真菌の産生する生理活性物質と病原因子の必威体育_手机足球投注-官网app下载、C.albicansなどの二形性発育の形態形成のメカニズムとその制御の解析も行っています。最近の研究成果としては、C.albicansの産生する酵母形発育促進物質(クォーラムセンシング物質として知られるテルペノイド)ファルネソールが、単に病原因子として働くのではなく、粘膜感染の重篤化の阻止に働くことを明らかにしました。
国民の1割以上を占める白癬患者数を減少させることを目標に、新たな足浴療法と気体治療法についての研究を精力的に進めています。
通常の製薬企業などでは実施が難しい新たな戦略で、真菌症の治療法を開発しています。化学療法の一分野として、低分子で揮発性のある植物精油を用いたカンジダ症?白癬の治療法について検討しています。植物精油および天然食品の成分の特性(安全性、抗菌活性、浸透性、揮発性、抗炎症作用)を生かした療法です。国民の1割以上を占める白癬患者数を減少させることを目標に、新たな足浴療法と気体治療法についての研究を精力的に進めています。足浴療法では、臨床研究が進み精油を含む温熱足浴が有効であることを明らかにしました。また、気体療法として、精油を含ませた中敷を入れて靴を履くことにより、新たなドラッグデリバリーとしての白癬治療法の開発を試みています。
また、口腔カンジダ症、膣カンジダ症に対する植物精油および天然食品の成分の予防治療効果についての研究も進めています。起因菌であるCandida属酵母は正常微生物フローラとして存在するため、皮膚?粘膜から菌を完全に排除することは不可能と想定し、これらの酵母が病原性を発揮できない状況を天然物で作り出すという戦略です。
今後さらにヒトの常在細菌が真菌との相互作用によって真菌症を制御する可能性について研究していきたいと考えています。
口腔カンジダ症の予防(治療)研究として、原因菌であるCandida albicansと直接相互作用をする乳酸菌について研究を行いました。その結果、乳酸菌の中にはC. albicansに直接付着することによって、C. albicansの口腔内組織への付着および菌糸形発育を阻止することにより口腔カンジダ症の発症を抑えることのできる菌がいることがわかりました。(写真参照)この研究成果はプロバイオティクスとしての乳酸菌の抗真菌活性の1例といえます。
口内カンジダ菌を減少させる独自成分である、アロマ成分複合体DOMAC(ドゥーマック)が配合されたおいしいノンシュガーキャンディーを開発。限定試験販売では、テレビCMをはじめとして、JR東海の電車内、中吊広告、SHIZUOKA109の壁面大型ポスター、シティスケープなどで告知され、口腔ケアの意識啓発の活動にも貢献しました。